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ライトノベル

あたためておくのです

著者:神代のえる / 出版社:Realize出版
見合いの席で意見を口にするたび、「はしたない」と黙らされてきました。いつしかわたくしは、自分の望みを言葉にすることを、諦めてしまっていたのです。新しく専属になった運転手の恭一さんは、丁寧ですけれど必要なことしか話さない人。運転の話をするときだけ、少しだけ言葉が増えるのです。その恭一さんが、出発前に決...

最終更新:2026-09-14

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📚 作品ラインナップ (全4巻) 最終更新:2026/09/14

運転の話しかしない無口な運転手が、わたくしの膝掛けだけ毎朝あたためておくのです
1巻

見合いの席で意見を口にするたび、「はしたない」と黙らされてきました。いつしかわたくしは、自分の望みを言葉にすることを、諦めてしまっていたのです。新しく専属になった運転手の恭一さんは、丁寧ですけれど必要なことしか話さない人。運転の話をするときだけ、少しだけ言葉が増えるのです。その恭一さんが、出発前に決まって膝掛けを送風口の前で温めておくのに、わたくしは気づきました。理由を尋ねても、短い答えしか返ってきません。「ここでは何を言ってもいい」と静かに言われ、初めて助手席に座らせてもらいました。わたくしのために初めて誰かが動いてくれて、下の名前を呼ばれて——最後の夜、恭一さんは膝掛けを置いて、運転ではなく、じかにわたくしに触れたのです。結果ではなく、道の途中を見ていてくれた人は、あなたが初めてでした。あの膝掛けが、いつから、誰のために温められていたのか。わたくしは最後まで、知りませんでした。本作は神代のえるの「あたためておくのです」シリーズ。一話完結・どこからでも。

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間違えても叱らない家庭教師が、わたくしに渡す紅茶だけいつも一口先に飲むのです
2巻

姉といつも比べられ、「できない方」という評価を、家中に貼られて育ちました。答案の点数を見るのが怖くて、間違えるたびにわたくしは、まず先に謝ってしまうのです。新しい家庭教師の慧さんは、穏やかで、間違いを咎めずに解き方だけを教えてくれる人でした。その慧さんが、授業の終わりに渡してくれる紅茶を、いつも一口だけ先に飲んでから差し出すのに、わたくしは気づきました。理由を尋ねる勇気は、なかなか出ませんでした。「できないことと、価値がないことは違う」と静かに言われ、間違えた答案を見せても叱られない経験を、初めてしました。わたくしのために初めて誰かが動いてくれて、下の名前を呼ばれて——最後の夜、慧さんは紅茶を置いて、授業ではなく、じかにわたくしに触れたのです。正解ではなく、たどり着くまでの途中を見ていてくれた人は、あなたが初めてでした。あの一口が、いつから、誰のために始められた習慣だったのか。わたくしは最後の夜、ようやく知ったのです。本作は神代のえるの「あたためておくのです」シリーズ。一話完結・どこからでも。

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土の話しかしない無口な庭師が、わたくしが朝いちばんに触れる一輪だけ温めておくのです
3巻

体が弱いからと、庭に出ることさえ許されませんでした。何かを欲しがるたびに「わがまま」「体に障る」と、望みを取り下げさせられて。いつしかわたくしは、欲しいと口にする前に、自分で望みを引っ込めるようになっていたのです。新しく来た庭師の迅さんは、無口で、土と花の話のときだけ言葉が増える人でした。その迅さんが、わたくしが朝いちばんに触れる一輪だけ、夜露で冷えたのを先に手のひらで包んで温めておくのに、わたくしは気づきました。理由を尋ねても、短い答えしか返ってきません。「欲しがることと、迷惑をかけることは違う」と静かに言われ、初めて自分で一輪を選んで切ることを許されました。わたくしのために初めて誰かが動いてくれて、下の名前を呼ばれて——最後の夜、迅さんは鋏を置いて、庭仕事ではなく、じかにわたくしに触れたのです。咲いた結果ではなく、咲くまでの途中を見ていてくれた人は、あなたが初めてでした。あの一輪が、いつから、誰のために温められていたのか。わたくしは最後まで、知りませんでした。本作は神代のえるの「あたためておくのです」シリーズ。一話完結・どこからでも。

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時計としか話さない無口な時計番が、亡き母の形見だけ毎朝あたためて返してくれるのです
4巻
2026-08-20

母を早くに亡くしました。形見の懐中時計だけが、母とわたくしをつなぐ糸です。けれどこの家では、立ち止まって何かを惜しむたびに「女々しい」「済んだことだ」「前を向け」と叱られ、わたくしは母を思い出す時間さえ、こっそり盗むようにしか持てなくなっていたのです。新しく来た時計番の響さんは、無口で、時計と音の話のときだけ言葉が増える人でした。目を病んで、針を見ずに歯車の音だけで時計の狂いを聴き分けるのです。その響さんが、夜のねじ巻きで冷えた母の懐中時計を、毎朝わたくしに返す前、先に手のひらで温めておくのに、わたくしは気づきました。「済んだことを大切に思うことと、前へ進めないことは違う」と静かに言われ、初めて母を惜しんで立ち止まっても、急かされませんでした。わたくしのために初めて誰かが動いてくれて、下の名前を呼ばれて——最後の夜、響さんは道具を置いて、務めではなく、じかにわたくしに触れたのです。あの温もりが、いつから、誰のために始められた習慣だったのか。わたくしは最後まで、知りませんでした。本作は神代のえるの「あたためておくのです」シリーズ。一話完結・どこからでも。

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