- 酒や女癖に難がある沼男と強気なアラサーOLが織りなす関係性がわかる
- 読者の間で好みがはっきりと分かれる具体的な要素がわかる
- 他の大人向け恋愛作品と比較した際の特徴や強みがわかる
- 単行本版や分冊版の違いと休載状況を踏まえた読み方がわかる
踏んだり、蹴ったり、愛したりとはどんな物語か
踏んだり、蹴ったり、愛したりという作品が持つ最大の特色は、キラキラした恋愛感情ではなく、生活感と後ろめたさが混ざり合った生々しい人間関係にあります。まずは物語の土台となるキャラクター造形や、二人が抱える歪んだ距離感について掘り下げていきます。
酒と煙草と女遊びに溺れる沼男の生々しい実態
男性主人公の泰(たい)は、一言で表すなら生活習慣も異性関係もだらしない、いわゆるダメ男の典型です。日常的に酒と煙草に浸り、特定の恋人を作らず複数の女性と適当な関係を結ぶなど、倫理的に褒められる要素は見当たりません。部屋は散らかり放題で約束の時間にもルーズ、将来のことを真剣に考えているようには見えない刹那的な生き方を送っています。
一般的な恋愛作品であれば敬遠されかねない属性をこれでもかと詰め込まれているにもかかわらず、彼には不思議と人を惹きつける天性の人懐っこさと、ふとした瞬間に見せる無自覚な優しさが備わっています。女性の機微を察する勘の鋭さや、弱っている相手にすっと寄り添う距離感の詰め方が絶妙で、関わると抜け出せなくなる危うい魅力に満ちています。読めば読むほど、関わってはいけないと頭では理解しつつも惹かれてしまう、生々しい質感を持ったキャラクターです。
媚びない強気なアラサーOLが抱える葛藤
ヒロインの佳帆(かほ)は、責任ある仕事をしっかりとこなす自立したアラサー会社員です。受け身で男性に守られるような従来の少女マンガの主人公とはまったく異なり、理不尽な状況には真っ向から立ち向かい、言いたいことをズバズバと口にする気の強さを持っています。泰のだらしなさに対しても一切遠慮せず、容赦のないツッコミや手厳しい言葉を浴びせる逞しさが印象的です。
普段は理性的で有能な大人の女性として振る舞っている佳帆ですが、泰の前でだけは感情のブレーキが利かなくなります。相手のいい加減な態度に腹を立てて舌打ちをしたり、素直になれない苛立ちから攻撃的な態度を取ってしまったりと、余裕のない一面をさらけ出してしまいます。大人としてのプライドがあるからこそ、自堕落な男に振り回されている自分自身を許せないという、複雑な葛藤を抱えながら日々をもがいています。
友達以上恋人未満のバグった距離感と過ち
二人の関係は、もともとは何でも気兼ねなく言い合える気楽な飲み友達でした。深夜の居酒屋やバーでくだらない軽口を叩き合い、適度な距離感を保っていたはずの二人が、泥酔した勢いで一度だけ決定的な一線を越えてしまったことから、互いの日常が狂い始めます。過ちを犯したからといって恋人関係に移行するわけでもなく、かといって元の無邪気な友達関係に戻ることもできない、非常にいびつな均衡状態に陥ってしまいます。
互いに好意や執着を抱いていることは明白なのに、傷つくことを恐れるあまり本心を明かそうとしません。相手の出方を探るような駆け引きを仕掛けたり、あえて突き放すような冷たい言葉を投げたりと、素直になれない二人の自爆劇がじっくりと描かれます。大人の割り切った関係を装いながら、内心では相手の言動一つひとつに強烈に揺さぶられている姿は、痛々しくも引き込まれるものがあります。
読む人を選ぶ好みの分かれ目と作品の魅力
本作は万人に受け入れられる無難なロマンスではなく、読者の好悪が激しく分かれる尖った作風を持っています。どのような要素が熱烈に支持され、一方でどこが引っかかりやすいのか、作品の核心となるポイントを整理してみましょう。
だらしなさと色気を行き来する男性主人公の魔力
泰というキャラクターの最大の魅力は、だらしなさと色気の間にある絶妙なギャップです。普段の気だるげでやる気のない立ち居振る舞いや、ボサボサの髪に煙草をくわえる姿には独特のアンニュイな色香が漂っています。決して清廉潔白な好青年ではありませんが、ふとした瞬間に佳帆だけに見せる執着心や、無防備な笑顔の破壊力は凄まじいものがあります。
欠点だらけの人間が時折見せる真剣な眼差しや、独占欲が滲み出た仕草に胸を掴まれる人にとって、泰はまさに抜け出せない底なし沼のような存在に映るはずです。完璧なスパダリ系の男性キャラクターにはない、リアルで不完全な人間の生々しい魅力が丁寧に描かれており、このキャラクター造形を受け入れられるかどうかが、作品を楽しめる最大の分岐点となります。
遠慮のない毒舌と軽妙な掛け合いがもたらす爽快感
二人の間で交わされる会話劇のテンポの良さは、本作の大きな読みどころです。お互いに気取ったり取り繕ったりすることなく、テンポ良く毒舌や軽口の応酬が続きます。佳帆の切れ味鋭い突っ込みに対して、泰がのらりくらりと皮肉混じりに受け流す様子は、まるで漫才のようでありながら大人の洒落た雰囲気を醸し出しています。
少女マンガ特有の甘ったるいセリフのやり取りが苦手な人でも、このドライで対等なやり取りには心地よい爽快感を覚えるはずです。本音を隠すための軽口でありながら、言葉の端々に互いへの理解や甘えが透けて見える構造になっており、会話の行間から二人の親密さと複雑な感情がひしひしと伝わってきます。
センスあふれる美麗な作画と情感豊かなカット割り
作者の圧倒的な画力と画面構成のセンスも、物語の雰囲気を強烈に引き立てています。登場人物たちの表情の機微や視線の泳ぎ方、煙草の煙が立ち上る空気感、夜の街の気だるい陰影などが美麗なタッチで繊細に描き出されています。扉絵やカット割りの一つひとつが洗練されており、まるで短編映画を観ているかのようなアンニュイな余韻をもたらします。
言葉による説明を過度に重ねるのではなく、登場人物の手元の動きや伏せられた目線だけで感情の揺らぎを表現する演出が光ります。登場人物たちの纏う洒落たファッションや、行きつけの飲食店の空気感に至るまで徹底して作り込まれており、ビジュアル面だけでも十分に鑑賞する価値のある仕上がりです。
読む前に注意しておきたい合わない人の特徴
どんなに魅力的な要素を備えていても、受け付けない人にとっては強いストレスになってしまう部分が存在します。購入してから後悔しないよう、本作が合わない可能性が高い読者の特徴を率直に解説します。
異性関係のだらしなさや不誠実さに強い嫌悪感を抱く場合
男性主人公の泰は、物語の序盤から複数の女性との関係を匂わせる描写が多々あります。恋人がいないとはいえ、特定の好意を寄せている相手がいる状況でも夜遊びをやめず、ふらふらと他の女性の影をちらつかせる行動は、人によっては生理的・倫理的な嫌悪感を抱く大きな要因になります。
浮気や不誠実な異性関係に対して厳格な倫理観を求める方や、一途で純粋にヒロインだけを愛し抜く男性ヒーロー像を好む方には、泰の言動は耐え難いものに映るはずです。どれだけ色気や優しさが描かれていても、不貞腐れた態度や無責任な行動そのものを受け入れられないのであれば、読み進めること自体が苦痛になってしまうでしょう。
ヒロインの暴力的な言動や舌打ちに品がないと感じる場合
佳帆のサバサバとした気の強さは作品の魅力である反面、一部の読者にとっては苛立ちを招く原因となります。泰のだらしなさや無神経な態度に対して、手を上げて叩いたり、露骨に舌打ちをしたり、きつい言葉で一方的に罵倒するような描写が頻繁に登場します。
自分自身にも泥酔して過ちを犯した落ち度があるにもかかわらず、泰に対してのみ八つ当たりのように攻撃的な態度を取り続ける姿に対して、「理不尽で自己中心的」「品がなくて見ていられない」と感じてしまう人もいます。ヒロインには穏やかで可憐、あるいは感情を荒らげない理知的な佇まいを求める方にとっては、彼女の激しい気質がストレスになりかねません。
膠着状態の長いすれ違いや試し合いに苛立ちを覚える場合
二人の関係は、互いに好意を持っていることが明らかであるにもかかわらず、非常に長い間進展しません。本音を言えば関係が壊れてしまうかもしれないという恐怖から、相手の嫉妬を煽るような行動を取ったり、あえて冷たく接して相手の反応を試したりする膠着状態が中盤まで続きます。
両片思いの甘酸っぱいすれ違いというよりは、プライドの高さと素直になれなさから生じる意地の張り合いに近いため、テンポ良くストーリーが進む恋愛ものを求めている読者にとっては、「早く付き合えばいいのに」「いつまで同じ問答を繰り返すのか」とじれったさを通り越して苛立ちを覚えてしまう可能性があります。
作品を深く楽しむための見どころと注目キャラクター
合わない要素を乗り越えて本作の空気感に浸ることができれば、他の漫画にはない独特の読書体験を味わえます。物語を盛り上げる象徴的なシチュエーションや重要人物について解説します。
行きつけのバーと整体院で交差する日常の生々しさ
物語の主要な舞台となる行きつけのバーでは、大人のリアルな夜の日常が切り取られています。薄暗い照明と酒のグラス、煙草の煙が漂う空間で、泥酔した勢いから生まれた過ちと、その後に訪れた気まずい沈黙が丁寧に描かれます。どこか退廃的でありながら日常の延長線上にある空気感が、二人の腐れ縁をより濃密に印象づけています。
一方で、佳帆が偶然にも泰の勤務先である整体院に客として訪れ、ばったり遭遇してしまうエピソードも見逃せません。夜の自堕落でチャラチャラした雰囲気とは打って変わり、昼間の職場では真面目で爽やかな好青年整体師としてテキパキと働く泰の姿を目撃することになります。夜の顔と昼の顔という生々しい二面性を突きつけられることで、佳帆だけでなく読者もまた、彼の捉えどころのない魅力に引き込まれていくことになります。
誠実で非の打ち所がない当て馬である加勢の存在感
本作の人間関係において極めて重要な役割を果たすのが、佳帆に好意を寄せてアプローチしてくる加勢(かせ)という男性キャラクターです。加勢は泰とは真逆の存在であり、身なりが整っていて清潔感があり、仕事に対しても真摯で、女性に対して礼儀正しく誠実に接する非の打ち所のない好条件の人物です。
現実的に結婚や将来の安定を考えるのであれば、誰が見ても泰ではなく加勢を選ぶべきであることは明白です。読者の中にも「絶対に加勢を選ぶべきでもったいない」と惜しむ見解が出るほど、彼の誠実さは際立っています。しかし、どんなに好条件の相手からアプローチされても、心は理屈通りに動かず、クズでだらしない泰から目が離せないという佳帆の業の深さが、この対比によって残酷なまでに浮き彫りにされます。
互いに引けなくなり感情が爆発する6巻の転換点
中盤までダラダラと続いていた探り合いの膠着状態は、第6巻で大きな転換点を迎えます。これまで大人の余裕や気楽な友達関係を装うことで誤魔化してきた二人の防壁が完全に崩壊し、お互いに引くに引けない状況へと追い込まれていきます。
プライドも打算もすべて脱ぎ捨て、感情をむき出しにして激しくぶつかり合うこの重要局面は、それまでのじれったさを一気に吹き飛ばすほどの凄まじい熱量を帯びています。長きにわたるすれ違いと試し合いを積み重ねてきたからこそ、この爆発的なカタルシスが生きてきます。序盤や中盤で展開の遅さに飽きかけていた読者であっても、この6巻の転換点を境に作品の熱烈な虜になってしまうほどの力強さを持っています。
来世は他人がいいやできないふたりとの共通点と違い
踏んだり、蹴ったり、愛したりが好きな読者がよく引き合いに出す作品として、小西明日翔先生の『来世は他人がいい』が挙げられます。危険で底知れないクズさを併せ持つ色気ある男性と、媚びることのない気丈で鋭い女性主人公が織りなすヒリついた駆け引きという点で、非常に親和性の高い空気感を持っています。極道の抗争のような非日常ではなく、アラサーの生活圏という日常に落とし込んでいる点が本作ならではの持ち味です。
また、社会人同士のじれったい距離感や軽快な会話劇という文脈では、『できないふたり』や『恋せよまやかし天使ども』などの作品とも共通する魅力があります。ただし本作は、それらの作品よりも男女の肉体的な距離感や生活のだらしなさ、お互いに素直になれないトゲトゲしさが生々しく描かれており、より大人向けでアンニュイなビターテイストに仕上がっています。
読み始める前に知っておくべき配信形態と連載状況
本作を読み始めるにあたって、事前に把握しておかなければ確実に混乱してしまう注意点がいくつか存在します。購入形式や現在の刊行状況について詳しくまとめました。
単行本版と分冊版や単話配信の違いと選び方
電子書籍ストアで本作を探す際、多くの人が直面するのが購入形態の複雑さです。本作には大きく分けて「単行本版」「分冊版」「単話配信」という異なるフォーマットが存在し、巻数や話数のカウントが全く異なっています。
単行本版は紙のコミックスと同じ区切りで刊行されており、既刊は6巻までとなっています。一方で分冊版は単行本を細かく切り分けたもので50番台まで存在し、さらに細かく1話ごとに配信される単話配信では80話から90話台といった大きな数字が並んでいます。まとめて物語を追いたい方や番外編・カバー下などの特典を楽しみたい方は単行本版を選ぶのが最も分かりやすく、最新の展開を少しずつ先読みしたい方は単話配信をチェックするというように、目的に応じて買い分ける必要があります。
既刊6巻時点での休載状況と刊行ペースの傾向
作品を読み進める上で覚悟しておくべき点として、連載ペースが不定期かつ遅めであるという事実があります。特に単行本第6巻が刊行された後、作品は休載期間に入っており、公式サイト上の案内でも次回更新日が未定となっている時期が存在します。
6巻が劇的な人間関係の転換点を迎えて幕を閉じているため、続きが気になってたまらない状態のまま待たされることになります。テンポよく次々と新刊が刊行される作品に慣れている方にとっては、この刊行ペースの遅さはもどかしさを感じる大きな要因になるはずです。一気に物語の結末まで読み切りたいタイプの方は、連載の再開状況や刊行ペースを事前に把握した上で読み始めることをおすすめします。
昼の爽やかな整体師と夜の自堕落さというリアルな落差
物語の背景設定として興味深いのは、泰の職業である整体師としての描写です。昼間の職場では清潔感のある制服に身を包み、患者に対して親切かつ爽やかに接する優秀な整体師として機能しています。この昼の真面目な姿がしっかりと描かれているからこそ、夜の酒浸りで女遊びを繰り返す姿の自堕落さが際立ちます。
完全な社会不適合者として描くのではなく、社会人として真っ当に働く昼の顔を持たせている点に、作者のキャラクター描写のリアリティが宿っています。しかし読者によっては、昼間が爽やかな好青年である分だけ、夜のだらしなさや無責任な女性関係の痛々しさがより現実味を帯びて感じられ、見ていて居たたまれなくなるという指摘もあります。この落差を大人の多面的な人間味として楽しめるかどうかも、本作を味わう上での重要な着眼点となります。
踏んだり、蹴ったり、愛したりのよくある質問
踏んだり、蹴ったり、愛したりは完結していますか?
完結していません。単行本版は既刊6巻まで発売されていますが、物語は重要な転換点を迎えたところで続いています。連載ペースは比較的ゆっくりであり、休載期間を挟むこともあるため、完結まで一気読みしたい方は最新の連載状況を確認しておくのが安心です。
単行本版と分冊版のどちらから購入するのがよいですか?
基本的には単行本版からの購入が分かりやすくおすすめです。分冊版や単話配信は話数の数字が大きく、どこまで読んだのか把握しにくくなる場合があります。まとまったエピソードを一気に読みたい方や、描き下ろしやおまけページを楽しみたい方は単行本版を選びましょう。
少女漫画のような甘い王道ロマンスを期待しても楽しめますか?
甘いロマンスを期待して読むとギャップに戸惑う可能性が高いです。本作はキラキラした胸キュン展開よりも、酒や煙草の匂いが漂う夜の街での会話劇や、互いに素直になれない男女のヒリついた駆け引きが主軸となっています。ビターでリアルな大人同士の人間模様を楽しみたい方に向いています。
恋愛の進展はどの巻あたりから期待できますか?
二人の関係性が劇的に動くのは単行本第6巻です。それ以前の巻でも一夜の過ちやすれ違いは描かれますが、互いにプライドや臆病さから本心を隠し合う膠着状態が続きます。6巻でこれまでの我慢や葛藤が爆発し、感情をむき出しにしてぶつかり合う大きな進展を迎えます。
愛ちゃんのひとこと
踏んだり、蹴ったり、愛したりは、いわゆる都合の良い王子様が出てくる恋愛マンガに飽き飽きしている人にこそ触れてほしい作品です。泰のだらしなさは現実なら絶対に近寄りたくないレベルですが、紙の上だからこそ味わえる生々しい色気と毒気に満ちています。佳帆の強気な物言いや二人の進まない関係性にヤキモキさせられつつも、夜のバーで交わされる洒脱な会話劇にいつの間にか引き込まれてしまいます。誠実な男が勝つとは限らない大人の恋愛の苦味を覗き見したいなら、試してみる価値は十分にあります。
踏んだり、蹴ったり、愛したりを読むか迷っている方へ
踏んだり、蹴ったり、愛したりは、読者を明確に選ぶ作品です。倫理的に正しい誠実な男性主人公や、品行方正で控えめなヒロインによる心温まるラブストーリーを求めている方には、本作の登場人物たちの言動は受け入れがたく、ストレスを感じてしまう可能性が高いと言わざるを得ません。
しかし、欠点だらけで放っておけない沼男の危うい色香に溺れてみたい方や、対等に毒舌をぶつけ合いながらも離れられない男女の泥沼劇が好きな方にとって、これほど心を激しく揺さぶられる作品は他にありません。6巻で訪れる感情の激突に向けてじわじわと積み上げられる関係性の歪みは、他では味わえない強烈な引力を持っています。まずはご自身の好みの傾向と照らし合わせながら、この危険な腐れ縁の世界に足を踏み入れるかどうか判断してみてください。