📚 作品ラインナップ (全9巻) 最終更新:2026/05/27
彼女――宮城は変だ。週に一回五千円で、私に命令する権利を買う。一緒にゲームしたり、お菓子を食べさせたり、気分次第で危ない命令も時々。秘密を共有し始めてもう半年経つけれど、彼女は「私たちは友達じゃない」なんて言う。ねぇ宮城、これが友情でないのなら、私たちはどういう関係なの? あの人――仙台さんでなければいけない理由は、今も別にない。私のふとした思い付きに彼女が乗った、ただそれだけ。だから私は、どんな命令も拒まない彼女を今日も試す。……次の春、もし別のクラスになったとしても彼女はこの関係を続けてくれるだろうか。今は、それがちょっとだけ気がかりだ。
長い休みは憂鬱だ。一人でいることには慣れているけど、一人でいることが好きなわけじゃない。高校最後の夏休みは、みんな忙しい。仙台さんとだって、会うのは”放課後”だけというルールだ。なのに彼女は『家庭教師になってあげる』なんて提案してきて。……キスしたこと、気にしてるのは私だけなの? つまらない。面白くない。キスしても何も変わらない宮城に、もうすぐ来る長い休みに、そう思う。だから、宮城に提案した。『休み中も宮城に会いたい』そう思っているのかは自分でもわからないし、距離を置くべきなのはわかっている。……でも、本当は彼女から返事が来ることを、私はたぶん期待している。
夏休みが終われば、全て元通りになると思っていた。曖昧になったルールも、仙台さんとの距離も。なのに、彼女だけが未だに変で、「同じ大学受けたら?」なんて言いだす始末。そんなことを言われても、卒業後も一緒にいる理由はないし、彼女の将来に興味はない。そう、全く、少しも、私は興味ないのだ。 夏休みが終われば、進路の話になるのは自然なことだ。例えば宮城に、私と同じ大学への進学を提案してみたり。もちろん、宮城がそんな未来を考えていないことは知っている。それでももし、彼女が私と一緒の未来を少しでも考えてくれたら――そんなことを期待する私はやっぱりずるいのかもしれない。
春になったら、この関係は終わりだ。でも、今はまだ簡単に会えるし、会う理由も作れる――たとえ冬休みであっても。仙台さんに会いたいと思うことも、触れたいと思うことも、全部ルールを最初に破った彼女のせいだから。だから責任をとってもらわないと困るのに……仙台さんはまだ何も言ってこない。 春になったら、この関係は終わりだ。たとえ近くの大学に進もうと、今と全く同じではなくなる。それでもこの先の未来で、隣に宮城がいてほしい。今そう願ってしまうことは契約違反だろうか? その問いの答えを、私は彼女の口から聞きたいと思ってしまっている。「――宮城は私に会いたくない?」
春になって形を変えた関係は、私たちの間に“できないこと”を増やした。前より距離は近づいたのに、触れるための、キスするための理由がない。――失った五千円に代わる“言い訳”が、私たちにはやっぱり必要だ。
ルームメイトとは言えないことをしたあの日から、彼女が家に帰ってこない。行先は分かっている。捕まえに行くべきだと思う。でも、一人でいる間に自覚してしまった感情が、認めたくないその感情が私を迷わせている。
彼女と過ごす三度目の夏が始まる。ふたりで出かけること、お互いの誕生日を祝うことーー今までしなかったこと、特別なことを、これからの当たり前に。そんな約束が増えていく、この長い休みがずっと続けばいいのに。
彼女は私の心の隙間に入り込み、いつしか私を埋め尽くす。でも彼女は私の思い通りにはならない。 バイト先に遊びに行く。一緒に過ごす学園祭、クリスマス会。共有するものは増えたのに、ざわつくこの気持ちは、何?
共に過ごす時間。私の言葉に従う姿。耳元で輝くピアス。印となるものはあるのに、心はどこかざわついていて。好きなもの、嫌いなもの、考えていること――本当の彼女を、知りたい。